○たとえ1時間のスピーチでも、翌日の朝刊に載るときは1行のキーワードにされてしまう。実際にスピーチを聞いた人でも、3日経てば内容の9割を忘れてしまう。こんな時代、「ワンフレーズ政治」の小泉総理はいざしらず、自分の考え方を正確に伝えるのは容易なことではない。
ソニーの出井会長は、95年の社長就任以来、7年間で300回の公式スピーチを行ったという。『非連続の時代』(出井伸之/新潮社)は、この間の主要スピーチの集大成。たとえば「デジタル・ドリーム・キッズ」は、社長就任と同時に打ち出したコンセプトとして有名だが、スピーチ全文を読んでみると、歴代のカリスマ経営者の後を受けた出井氏が、会社の新しい方向性をこの言葉に託して熟慮していることが分かる。単なるひらめきではなく、時代を読み、理詰めに導き出された言葉なのだ。
出井氏は17万人の社員を率いて、IT革命からハイテクバブル崩壊までの時代を疾走する。そしてソニーは、WEGAやVAIO、プレステ2やAIBO、果てはスパイダーマンなどのヒットを連発し続けた。この間に出井氏が発信したコンセプトは数限りない。「複雑系のマネジメント」「統合と分極」「ソフト・アライアンス」「30度の法則」などなど。日本ではめずらしい理念型の経営スタイルといえようか。
最新のキーコンセプトは「クオリア」だ。これは数字や数式では表せない、赤色の赤い感じといった感覚を構成する「質感」のこと。ソニーが目指すべきは「いかにもソニーらしい」質感だという。なるほど、「安けりゃいい」という安易な妥協がデフレを招くのだ。消費者を感動させる商品を追い求める限り、ソニーはソニーであり続けるだろう。
○マクロ経済学とミクロ経済学の違い、あなたなら何と説明します? 経済には自信ありという人でも、『初心者のためのやさしい経済学』(塚崎公義&山澤光太郎/東洋経済新報社)の説明にはうなるだろう。「これ以上やさしく書けない!」という帯の文句に嘘はない。なおかつ最後には、「IS−LM曲線と流動性のワナ」まで説明してしまうのだから脱帽モノ。分かっているつもりの人にこそ本書はお勧めかも。
○英語学習本やビジネス書とはちょっと違う。『英文社内文書の書き方』(名塚紀子&木下泰&アイバ・ピュ/The Japan Times)は、外資系企業の中で用いられている英文書類を紹介しつつ、英作文のイロハから外資の思考法が身につくというお役立ち本だ。とくに巻末の「日本人英語で誤解されないために――書き方13か条」は、ここだけでも立ち読みしておく値打ちあり。
(価格は順に1500円+税、1400円+税、2200円+税)
編集者敬白
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