○書き出しが「成仏できない」というくらいだから、著者の思いの深さは尋常ではない。かつて長銀の取締役を務め、改革案を提出したものの受け入れられず、経営者を批判して辞表を提出。長銀がその後どうなったかはご承知の通りである。『メガバンクの誤算』(箭内昇/中公新書)には、わが国金融界迷走の歴史への悔恨の情が濃密に込められている。
日本と米国の金融史を振り返ってみると、どちらも80年代に躓いたところまでは一緒。ところが90年代になって大きな差がついた。どこで差がついたのか。著者はその原因を銀行経営者と金融当局の能力、意識、モラルに求める。簡単にいえば人材の差。「共通の敵に対しては鉄の結束で立ち向かう」一方、不良債権隠しに血道を上げ、それが下手な銀行は業界の笑い者になる、というのが悲しいかな邦銀の作法だった。だから駄目な銀行が集まってメガバンクを作っても、大きな駄目銀行ができるだけ。金融界の建て直しには、公的資金より何より、内部の改革が欠かせない。
外からはなかなか見えにくい銀行界の内幕話には、「なるほど、そうだったのか!」とうなずくことが少なくない。銀行間の競争を妨げたのが興銀の存在だった、というのも興味深い。
その中でも、80年代の不動産向け貸し出し競争のきっかけを作ったのは、住友銀行の総本部制導入だった、という指摘は貴重な証言かもしれない。総本部長の決済権限を青天井とし、チェック機能が働かない制度を各行が競って取り入れたために、歯止めが効かなくなった。住銀の組織変更のプランを書いたのはあのマッキンゼー。ひょっとすると、バブルの引き金をひいたのは大前さん?
○インタビューの大家が、今話題の「キムゴー」と切り結ぶ。『退場宣告』(木村剛、田原総一朗/光文社)は、ご丁寧にも「居直り続ける経営者たちへ」という但し書きがついている。いわんとするところは明白だ。日本金融界の惨状を大いに語った挙げ句、「やっぱり最大の不良債権は経営者ですね」(田原)という結論になる。話が分かりやすいのはいいけれど、なんだか午前12時過ぎの酒場の議論といった気がしないでもない。
○光文社新書『怪文書U(業界別・テーマ別編)』(六角弘)。ベテランジャーナリストがこまめに集めた怪文書のコレクション。政官界から金融機関、夜の銀座に至るまで、世に怪文書の種は尽きない。この著者、怪文書に関する著書が多数なのはともかく、六角文庫という怪文書を集めた私設図書館まで運営しているというから権威(?)である。組織に対する忠誠心が低下した今日、怪文書はますます花盛りとなりそうだ。
(価格は順に820円+税、1500円+税、700円+税)
編集者敬白
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