2002年8月17日掲載分




 経常利益1兆円。その4割は予想外の円安効果によるとはいえ、日本企業として史上初の快挙を果たしたトヨタ自動車。日本企業全体を暗い影が覆っている感のある昨今、なぜトヨタだけが好調を維持しているのか。
 身の回りのトヨタの社員を見ても、特段に変わったところはないし、そもそも「トヨタの強さ」とは何かと尋ねても、理路整然とした説明が返ってきたためしがない。ただしそういうときは、カンバン方式の生みの親である大野耐一氏の名前があがることが多い。この当たりにトヨタの秘密がありそうだ。
 『トヨタ式最強の経営』(柴田昌治・金田秀治/日本経済新聞社)は、『なぜ会社は変われないのか』の著者である経営コンサルタントと、かつてトヨタ・グループで大野式の現場の経営改善を実践した社員のコンビが、トヨタの「暗黙知」を解き明かそうとしている。
 いわゆるカンバン方式とは、単に在庫を減らすことを目指した生産方式のことではない。それは問題点を顕在化し、改善活動を起こさせる仕組みであり、もっといえばシステムを刻々と変化させつづける企業革新の仕組みである。ゆえにトヨタ式には「これでいい」ということがない。問題点がなくなれば、今度は全員で熱心に問題点を探し始めるからだ。
 自主的な常識はずれの改善活動を積み上げていくことで、個々の変化は小さくても、気がつけば大きなイノベーションが可能になる。これこそ日本の風土に合ったオリジナルな手法といえよう。では、どうすればそういう企業風土を作り上げることができるのか。本書はいくつかの提案を行っているが、容易なことではなさそうだ。


 トヨタ自動車の成長過程を、オーナー一族の歴史とともに描いているのが『トヨタウェイ 進化する最強の経営術』(梶原一明/ビジネス社)。トヨタには事実上4人の創業者がいた。日本での自動車生産を決意した豊田喜一郎、工販合併などの英断を下した豊田英二、苦しい時期を支えた石田退三、そしてディーラー網を育てた神谷正太郎。ただ一人の創業者しかいない松下電器とは違い、いくつもの「トヨタウェイ」が共存できる理由がここにある。

 米国市場でのカムリ対アコード、小型車開発でのヴィッツ対フィット、ミニバンにおけるオデッセイ対イプサム。トヨタを本気にさせてきたのは、いつもホンダの挑戦だった。『トヨタとホンダ』(塚本潔/光文社新書)は、このライバル関係を事例豊富に描いている。トヨタの絶えない危機感の源泉は、「230万台以上売る会社が、70万台レベルの会社の後追いをすることへの苛立ち」にあるという。




編集者敬白





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