2002年7月13日掲載分




 なぜ財テクに手を出さなかったのか。なぜ銀行離れを決断したのか。なぜアジア通貨危機を予知できたのか。そして、なぜ三井物産副社長はリスクを管理し、利益をあげ続けることができたのか。
 『リスクに挑む』(福間年勝/バジリコ)は、伝説の財務マンが40年にわたる経験を語ったもの。連戦連勝の記録にしては、語り口は一貫して静かである。福間氏はリスクを見抜く天才だったわけではない。いつも失敗を忘れず、損失を恐れ、最悪の事態を想定して行動しただけだ。そして頑固さ。資金部長時代に役員会で、「なぜ財テクをしない」とつるし上げられても、「特金に200億円だけ」という路線を譲らなかった。
 福間氏の原理をひとことで言えば、他人任せにしないこと。特金・ファントラは最初から損を消すための商品と思っていたし、「握り」の約束などは信用しなかった。バブル崩壊後、多くの日本企業が経営の舵取りを誤る中で、こんな日本人もいたのである。
 「厳しいルールが会社を強くする」「企業は第一号に挑戦すべき」「いつも一人称で考える」「損を抱えると人間は希望的観測に走る」など、本書の指摘は重みがある。市場に立ち向かうとき、人間が頼れるのは自己規律だけなのかもしれない。
 三井物産を退任した福間氏は、今年4月に日本銀行の政策審議委員に就任した。ひょっとすると、日銀総裁は2代続けて商社出身、なんてことになったりして。

 それでは私もハイリスク・ハイリターンで蓄財を、という人にはこんな本がお勧めかもしれない。『中国株に乗り遅れるな』(千葉鴻儀/朝日新聞社)は、中国生まれの著者が、初心者用に中国株による資産作りをアドバイスした本。2008年の北京五輪を控え、中国は今が高度成長期。銘柄選びさえ間違えなければ、手堅い利殖法になるとのこと。ただしあんまり内容が単純なので、用心深い人はかえって不安になりそうだ。

 いやいや博打こそ出世の近道、と思うそこのアナタ、こんな本も紹介しておこう。ラスベガスを深く愛する日本人が書いた『賭けに勝つ人、嵌る人』(松井政就/集英社新書)。ラスベガスへの日本人旅行客は年々増える傾向にあるが、苦い思いをしている人が多いらしい。ほんのちょっとした知識で、勝負が面白くも楽しくもなる。新書1冊分の値段で、ジャック・ポットの出やすいスロットの見抜き方が分るんだから、これは安い。




編集者敬白





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