経済というととかく工業製品を連想するが、農業を通して見ると新たな発見が多くてためになる。『"トウモロコシ"から読む世界経済』(江藤隆司/光文社新書)は、商社マンが語る国際商品の本。
著者は1964年に伊藤忠商事に入社し、以後、穀物一筋に歩んできた。トウモロコシという商品は、お祭りの屋台で焼いて食べるばかりが能ではない。まず家畜用飼料として、それからアイスコーヒーのシロップやビールの材料に、果てはエタノールに転用してクルマの燃料や、プラスチックの原料にまで使われている。まさに戦略的な重要性を持つ国際商品だ。トウモロコシ相場の行方には、天候や需要や在庫などの要素はもちろん、食生活の変化や米国政府の農業政策、また中国のWTO加盟やGMO(遺伝子加工食品)の是非といった問題も関わってくる。
米国の穀物大手、カーギルに出向した時期の経験談が面白い。アメリカのお百姓さんは、@グリーディ(貪欲)、Aインディペンデンス(独立)、Bコンサバティブ(保守的)の気質を持つという。彼らは毎日変化する買い付け価格を見て、シカゴ市場の動きを予想しつつ、自分の作物をいつ売るかを決めるのだそうだ。食管制度に慣れた目からは、かの国の市場メカニズムに対する信頼感は、衝撃的なほどである。
8兆円規模の産業に、毎年3兆円の税金を投入して恥じないのが日本の農政。これで自給率の向上もままならないというのは、やっぱりどこか変だとしか思えない。
あの「9・11」テロ事件からから9か月。当時のショックは早くも忘れられつつある。『アメリカの風〜モニカから同時テロまで』(高成田亨/厚有出版)を読んで、久々に当時の緊張感を思い出した。本書は朝日新聞の元ワシントン特派員が、身の回りの出来事を描いたコラムをまとめたもの。スーパーで売っているタブロイド紙や、タクシー運転手との会話といった日常の描写を通じて、最近の米国社会の実相を浮かび上がらせている。
世はなべてW杯一色。にわかサッカーファンになった人は、『サッカーを知的に愉しむ』(林信吾&葛岡智恭/光文社新書)が格好の入門書だ。サッカーはその国の文化を反映する。イングランドは肉弾戦を好み、ドイツは組織戦を求め、イタリアは守備に辛く、フランスは華麗なパス回しをよしとする。他方、アメリカ人はサッカーのルールをアンフェアだと感じる。では日本のサッカーはいかにあるべきか。
ま、W杯が終ってから考えるとするか。
編集者敬白
書評欄へ