あの『チーズはどこへ消えた』のパロディ版、『バターはどこへ溶けた』を彷彿とさせるような大人のための童話である。改革に乗り出すライオンは小泉純一郎首相、ジャジャネコは田中真紀子外相とすぐわかる。抵抗勢力はズボン党のネズミたち。動物の姿を借りて、ここ1年の日本政治を寓話風に描いている。昨年末の出版以来、噂は噂を呼び、最近では書店で平積みになっているのが『ライオンは眠れない』(サミュエル・ライダー/実業之日本社)。
国民の高い支持を得て、ライオン王の改革は滑り出したのだが、そこにひどい不景気が来る。ネズミたちは「改革反対」を唱え出す。ついにライオン王はX計画に踏み切る。ライオン王のアイデアは、古いお札を使えなくして新しいお札に代える「新円切り替え」。国民のタンス預金やアングラマネーは、これで洗いざらい把握されてしまう。それに30%の財産税をかけると、累積赤字は一挙に解消される。めでたし、めでたし。
ここに書かれているアイデアは、実はそれほどの奇手とはいえない。金融不安に対するバンクホリデーは常道だし、新円切り替えも過去に行われた経緯がある。もっとも抜き打ち的にやらないと、実際には猛烈なキャピタル・フライトが生じてしまうだろう。新通貨ユーロの導入に際しては、その直前に欧州から米国への巨額の投資が行われた。かなりの部分がアングラマネーであったことは想像に難くない。
小泉政権の発足からすでに1年。財政赤字も金融不安も解決せず、政局は混沌としていくばかり。こんなことなら、もっと早くX計画をやっておけば良かったのに……。
バブルは遠くになりにけり。日本銀行と外部のエコノミストが、「なぜバブルは発生したのか」というテーマに取り組んだのが『バブルと金融政策』(香西泰、白川方明、翁邦雄/日本経済新聞社)。今さらながら、という気もするが、やらないよりはずっといい。バブルの発生に対しては、きわめて長い「認知ラグ」があったという指摘が重い。ちなみに「なぜバブルが崩壊したのか」というテーマは今後の課題だそうだ。
命の次に大事なものをどうやって守るか。似たような本はたくさん出ている中で、『ペイオフ―危ない銀行、安全な金融商品』(今井澂監修/竹村出版)は、なんと「袋とじページ」がついているところにご注目。ペイオフ解禁に備える大事なノウハウ、立ち読みで済まされたんじゃかなわないということか。開けてびっくり、なかなかに親切なヒントが書かれていたことをご報告しておこう。
編集者敬白
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