道路公団が工事の発注を止めたら、「相談がなかった」と怒っている政治家がいるらしい。そうか道路とは、政治家に頼んで作ってもらうものだったのか。その結果、
田舎には採算の取れない高い道路がどんどんできて、都内の道路はいつも渋滞している。そもそもインフラとは何だ、と文句のひとつもいいたくなるところに、タイミン
グよく登場したのが『ローマ人の物語] すべての道はローマに通ず』(塩野七生/新潮社)。
このシリーズは全15巻の予定で、毎年1冊ずつ発売されている。先の第9巻『賢帝の世紀』がアントニウス・ピウスまで終わったので、今度は五賢帝最後のマルクス・ア
ウレリウスかと思ったら、今回は「ローマ人が作った社会資本」がテーマ。道路、橋、水道といったハードから、医療、教育といったソフトまで、ローマ人が作ったイ
ンフラを取り上げ、時代を縦横に飛び交っている。
ローマ人はインフラストラクチャーのことを、「モーレス・ネチェサーリエ(必要な大事業)」と呼んでいた。つまり人間が人間らしい生活を送るために必要なもの。
道路にせよ水道にせよ、ときの指導者が公費をかけて作り、使用料は無料とされた。紀元前3世紀に始まるローマ人の道路作りは、地面を深く掘り込んで石を敷き詰め、
両脇には水路を作るといった配慮が尽くされていた。おかげでアッピア街道など、後世になっても使える立派な資産が残った。ローマ人が残したネットワークが、欧州文
明の基礎を作ったといっても過言ではないだろう。
インフラ作りはローマ人に学べ。間違っても、土建屋や政治家のためにインフラを作ってはいかんのです。当たり前過ぎるでしょうか。
テロ事件でアフガンやイスラムの本が売れている。『イスラム過激原理主義』(藤原和彦/中公新書)は、ルクソール事件を起こしたエジプトの原理主義運動を中心に
解説したもの。イスラム過激派は単なる狂信者集団ではなく、独自の革命思想のもとに組織化された人々だった。ビンラディンはその国際派という位置付けだという。な
るほどね。テレビや新聞であれだけ情報が流れていても、「原理主義とはなにか」といった込みいった話になると、やはり時間をかけて本を読む以外にないことを確認。
去年の秋、テロ事件で気持ちが滅入った頃にこんなメールをもらいませんでしたか?『世界がもし100人の村だったら』(池田香代子/マガジンハウス)。迷惑メール
が世間を騒がすなか、この現代版の「ガラス瓶の手紙」は世界中を駆けめぐり、多くの人の心を打った。日本では翻訳されたバージョンが、多少の変更を加えて流布し
た。
それにしても、著作権なしの文章を和英対訳にして、オシャレな装丁で売り出すとは、マガジンハウスさんはなんて商売上手なんでしょう。私もつい買ってしまいまし
た。中学生の娘に贈るつもりです。英語の勉強になるんじゃないかと。
編集者敬白
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