『日本経済の罠』 小林慶一郎&加藤創太
日本経済新聞社、(二〇〇〇円)




 小泉首相の持論は「構造改革なくして景気回復なし」。ただし世論調査によれば、国民が小泉政権にもっとも強く期待しているのは景気対策であるという。悩ましい二律背反である。

 バブル崩壊後の経済政策論議は、需要サイドを重視するケインズ型の財政金融政策と、供給サイドを重視する構造改革論の間を往復してきた。前者は何度も繰り返してあまり効果がなかった。後者は痛みを伴うし、本当に効くかどうかが分からない。「失われた十年」から脱出する決定打はなんだろう。

 最近コンセンサスになりつつあるのが、不良債権の最終処理をしないことには、日本経済の再生はないということ。そこで直接償却をという結論になるのだが、そこに至る論理的根拠が明確に示されていなかった。

 そこへタイミングよく登場したのが本書である。不良債権処理の先送りがなぜ経済を停滞させ、潜在成長力を低下させるかを「ディスオーガニゼーション」というモデルを提示して、経済学的にしっかりと説明している。つまり日本経済の「空白の九〇年代」とは、不良債権におびえる民間セクターが、ローリスク・ローリターンを求めた結果であった。この解釈は、現場感覚からも大いにうなずけるところではないだろうか。

 著者の二人は経済産業省の若手官僚で、いずれも米国の大学で博士号を取っている。ここで展開されている議論は、中身もスタイルも新鮮であり、官僚的な部分はみじんも感じられない。著者はいずれも入省が九一年というから、バブルの時代にはまだ学生だったという若さである。

 さて、本書が提示する四つの解決策については、文芸春秋四月号にも登場したのでご存知の方が多かろう。著者は「現状維持の持久戦」や「調整インフレ論の誘惑」の選択肢を排し、「市場メカニズムによるバランスシート調整」戦略を推奨している。

 読後の素直な印象としては、もう一つの選択肢である「バンク・ホリデーによる強制的不良債権処理」の方が賢明ではないかと思う。この戦略を取り得ない理由として、著者は実現可能性の低さを指摘している。だが小泉政権には、それくらい思い切った外科手術を期待したい。なにしろ支持率八割という政治的資源を有しているのだから。



編集者敬白



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