『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』岡本呻也
文芸春秋 (一七一四円)




 ネットベンチャーを取り上げる報道は、露骨なヨイショか極端な悪口か、その中間ということは少ないような気がする。新しい偶像が登場し、脚光を浴びるそばから落ちていく。これは日本のベンチャー界の未熟であるとともに、取り上げるメディアの側の未熟をも示していると思う。

 この点で一種のブレークスルーを果たしているのが本書である。著者は元『プレジデント』誌の名物編集者。フリーになって初の書き下ろしノンフィクションだが、過去十年にわたって二〇〇人以上の起業家を取材した経験をもとに、彼らを等身大に描くことに成功している。

 本書には生身の人間の勇気や先見の明、情熱や友情があると同時に、錯覚や未熟、愚劣な行動も正直に描かれている。個々の事業や起業家ではなく、ベンチャーを目指した若き群像を描いたことで、厚みのあるノンフィクションが出来あがった。

 その結果見えてきたのは、八〇年代末のダイヤルQ2から今日のiモードに至るベンチャーの軌跡である。たとえば「ポータルを目指す」といったネットビジネスの基本は、ダイヤルQ2の時点ですでに発見されていた。

 ところがその後のベンチャービジネスは、死屍累々の歴史となった。その中には派手な倒産劇を演じ、みずから『社長失格』という名著を残した板倉雄一郎氏もいた。彼らの失敗の上に、敗者復活戦としてのiモードの成功がある、と著者は指摘する。

 その意味ではここに描かれた出来事は、日本経済にとって貴重な失敗体験である。不毛といわれる九〇年代にも、こんな魅力的な「バカ」が大勢いたことを喜びたい。

 ベンチャーの最大の悩みは、「名創業者かならずしも名経営者ならず」という点につきよう。ごくまれにビル・ゲイツのように、企業の発展に合わせて、最初はコマンドー、次は将軍、最後は官僚と変質していく経営者がいる。日本でもソニーやホンダを作った人々には同じような人間的成長があったはずだ。

 「あのバカ」たちがその域に達するかどうかは、今後のIT革命の成否を分けるかもしれない。ベンチャー育成への政策的バックアップも検討されているが、周囲が彼らをどう育てるかも問われよう。つまり「あのバカ」たちを応援できるかどうかである。




編集者敬白



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