『ポケモンストーリー』 畠山けんじ・久保雅一
日経BP社 (一四〇〇円)




よく「空白の十年」などといわれるが、九〇年代には輝かしい成功もあった。NTTドコモが生んだiモードはその典型だが、それ比肩しうる日本発の世界的な成功が、ポケモンこと『ポケットモンスター』である。

試しにインターネット上の"Google"という検索サイトで"Pokemon"を入力すると、実に一九五万件ものサイトがヒットする。"Disney"は三〇五万件である。キャラクターだけで勝負してみると、"Pikachu"(ピカチュウ)は約三七万件で、"Snoopy"の二二万件や"Mickey Mouse"の一九万件を大きく引き離している。ポケモンという日本発のクリエイティブは、立派なグローバルブランドなのである。こんな快挙は黒澤明だってできなかったことだ。

ポケモンは子供をターゲットにした商品だけに、その偉大さが経済ジャーナリズムの盲点になっていると思う。加えてゲーム、アニメ、関連グッズ、映画など、さまざまなジャンルにわたるこのプロジェクトの全容は、まとまった形で紹介されることが少なかった。

今回、「ポケモンについて空っぽになるまで書きました」という本書の登場により、あらためてサクセスストーリーを追体験することができた。

任天堂のゲームボーイ機用ソフト、「ポケットモンスター」の赤と緑のバージョンが誕生したのは、一九九六年二月である。わずか五年でディズニーに匹敵する存在が誕生したという事実は、いかに「ドッグイヤー」の現代といえども奇跡としか言いようがない。ポケモンは「人類史上最大最速の伝播性と世界的共通性を備えていた」という本書の指摘は少しも大袈裟ではない。

読んでいて発見したのは、ポケモンがiモードにも共通する成功の方程式をもっていたことだ。ポケモン誕生の陰には多くの才能の出会いがあり、時代の要請があり、周到な計算があり、ハードワークがあり、危機の克服があり、そして予期せぬ幸運がある。

この本は「日本初、親子で読めるビジネス書」という触れ込みになっている。漢字にルビがふってるのは、子供にも読んでもらえるようにという配慮からだ。でもポケモンの成功の偉大さを知るべきは、むしろ大人たちであろう。

ぜひ第一線の経営学者の手で、ポケモンの成功を解読してもらいたい。



編集者敬白



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