『特許封鎖』岸 宣仁
中央公論新社 (一六〇〇円)




「アメリカが日本に仕掛けた罠」という刺激的な副題がついている。ビジネスモデル特許によって、米国がニューエコノミー時代における技術覇権を狙っている、という話かと思ったら、ヒトゲノムやエコカー、遺伝子組み換え食品などの問題も網羅している。知的財産権全般をめぐる日米格差の現状報告である。

聞けば聞くほど日本の現状は肌寒いばかり。政府の縦割り行政の弊害があり、民間の特許への認識の低さがあり、法律専門家の不足があり、研究現場のお粗末さがある。問題の種は尽きない。

「資源の乏しい日本が二十一世紀を生き抜くには、知的冒険のできる人たちをいかに育てていくかが問われている。〜中略〜究極の目標はIT革命とIP(知的財産権)革命である」。これは民主党がまとめたIP構想の一節。米国のプロパテント(特許重視)政策に対抗するためには、こうした問題意識が重要であることを疑う余地はあるまい。

すぐにでも手がけるべきことはいくらでもある。インターネット情報の八四%が英語だという現状では、英語教育が喫緊の課題であることは明白であろう。フィンランドの「ノキア」はいまや携帯電話で欧州のトップ企業だが、成功の秘訣は一九八八年に社内のすべてを英語に統一したことだったという。

一方で、新しい技術の発展が日本企業を利するケースも考えられよう。米国企業が有力な技術を囲い込んでも、たとえばデジタル家電などは、製品化しないと利益は得られない。製品化に関しては、おそらく日本企業に比較優位がある。日本勢の協力がなければ、米国の知的財産が宝の持ち腐れになりかねない。

言い尽くされたことだが、グローバル化時代においては、かならずしも国境は意味をなさない。著者の問題意識には心から同意するが、かならずしも悲観することばかりではないという印象が残った。

とはいえ、技術覇権をめぐっては、米国側は徹頭徹尾、戦略的である。とくにゴア副大統領が中心になった情報スーパーハイウェイ構想は、政治がここまで先見性を持ちうるという輝かしい事例であった。

いささか考え過ぎかもしれないが、今度の選挙でゴアが大統領にならなかったことは、日本にとってささやかな幸運だったかもしれない。



編集者敬白



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