株価対策のため、議員立法によって「金庫株」が認められそうな雲行きだ。商法が資本充実・維持の原則に則り、出資の払戻禁止など各種規定を置いていることを考れば、思い切った措置といえる。
この手の緊急措置は、わが国ではめずらしいことではない。そもそも自社株買いという制度自体が、九四年に株価対策として導入された。ところが実行に結びつかないの見て、「みなし配当課税」が時限的に凍結される。さらに九八年には、自社株買いの原資として、資本準備金を使うことができるようになった。今度の金庫株も、場当たり的な制度改革の延長線上にある。
しかしこの手のドタバタぶりは、けっして恥じることはないのかもしれない。本書はわが国の制度インフラの改革は、「プロセスは違っても結果は評価できる」と指摘する。
つまり結果として自社株買いが容易になれば、企業はバランスシート再編のための有効な手段を手に入れることができる。持ち合い解消にも有効である。拙速を重んじて、結果オーライというところがいかにも日本的だ。
親日派投資家である著者の視点はときに辛辣で、ときに暖かい。
「イギリスでビッグバンが行われるとすれば、ビッグバンというビジョンのもとに総合的に関連の法案を改正していく。しかし日本ではそうした統合的な意思決定システムがないために、分権的なシステムのもとで各省庁がそれぞれに取り組むことになる」
「成果はばらばらに出てきているけれども、それを総合的に見るとかなり評価できる結果になっている。これが、霞が関の本当におもしろいところだ」
たしかに過去五年間に、制度的枠組みの見直しは大いに進んだ。持株会社制度、株式交換制度、企業分割制度、さらに民事再生法など。新市場マザーズは、構想から設立までわずか二ヶ月だった。連結納税制度の導入もすでに視界に入っている。
日本型システムは各制度が複雑に絡み合って、それぞれに補完的な関係ができている。日本型資本主義を再構築するにはまだまだ時間がかかるだろう。とくに労働市場の改革が遅れている。
それにしても日本の制度改革には、「戦略的に決められたブループリントはない」という指摘が胸に染みる。
編集者敬白
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