『毛沢東秘録』(上・下) 毛沢東秘録取材班

産経新聞社 (各一七〇〇円)



半年にわたり、産経新聞紙上で連載されたコラムの集大成。上巻が出た時点で、すでに評判になっていたが、このたび下巻が出た。上巻では四人組逮捕、文化大革命、大躍進などを取り上げ、下巻は林彪事件、米中国交回復、ケ小平の復活などを紹介している。

新聞連載なので、記事が小刻みであるとか、時代が後先になったりするという点は惜しまれるが、それを割り引いても、とにかく面白い。「知らなかった!」ということがたくさん出てくる。 中国の戦後史は、これまで厚いベールに覆われていた。本書は「秘録」という名に恥じず、新証言が多く盛り込まれている。特に米中国交回復において、中国内部で路線対立があったという部分は興味深い。林彪事件の真因はここにあったという。

しかし本書の情報源は、中国国内で刊行されている、中国人の手による二百五十冊の文献に依っている。つまり現時点における公開情報なのである。現在の中国では、文化大革命時代を回顧する出版が盛んであるという。

もちろんこれらの文献は、中国政府が認めた範囲内で発表されたものであるから、まだまだ新事実は残されているだろう。しかし証言や資料が多くなればなるほど、隠された部分を想像することは容易になる。なにしろ、歴史を書き残すことに偉大な情念を持ってきた中国のことである。いずれはすべてが明るみに出ることだろう。

民主主義を前提とする現代人の目には、中国共産党内部の闘争はなんとも非生産的で愚劣なものに映る。今年十月で建国五十年を迎えた中国は、なんと多くの犠牲を払ってきたことだろう。 しかもここに書かれている時代は、そう遠い過去のことではない。文革時代に紅衛兵だった何万という人々は、今、改革・開放政策下の中国で、何を考え、何をしているのだろう。

先頃、WTO加盟をめぐる米中交渉が決着し、「これで中国の国際化が加速する」という声が多い。たしかにそれは望ましいことではあるが、本書に描かれている時代の中国を思い起こせば、簡単なことではないように思えてくる。

おそらく江沢民や朱鎔基たちは、本書に描かれているような戦いを、今も中南海で続けているのではあるまいか。



編集者敬白



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