邦銀に身を置く友人の話。あるクライアントをめぐり、競争相手になった外銀の担当者が、かつて同じ職場にいた同僚だった。つまり手の内をよく知る相手だった。ところが相手の顔を見た瞬間、こちらは「ああ、これは負ける」と思ってしまい、相手は「ふふ、勝ったな」と余裕の態度であったという。
なぜそんなことになるのだろう。同じ能力の日本人が、外銀に移ると途端に高いパフォーマンスを発揮するらしい。外資系の方が年収は高いのだから、コスト競争力は邦銀の方がありそうなのだが…。
『外資の常識』は、元JPモルガン銀行の東京支店長で、東京ナンバーワントレーダー、藤巻健史氏の著書である。なにしろ一九年間連続で相場に勝ってきた人である。バブルの頂点で日本株を売り、その後の構造不況下で日本国債を買い続け、九五年の円ドルレートの転換を当てた。この間、どれほど会社を儲けさせたかは、本人も黙して語らない。この藤巻氏も、かつては邦銀にいて、外資に挑戦してチャンスをつかんだ。こういう人が書いた本が面白くないはずがない。
本書は、藤巻氏が手書きで書いていた名物ファックス通信「プロパガンダ」の単行本化。題名はまるで、「外資とはこんなにスゴイところ」と言っているようだが、中身は藤巻氏が過ごしてきた、笑いあり涙ありの体験談に焦点が置かれている。藤巻支店長は、長男Kの学校での成績に悩み、有能過ぎる部下シライのきつい仕打ちに耐え、円形脱毛症になったり、「俺は偉いんだぞ」とぼやいたりする。「外資」や「金融」のおっかないイメージが、一瞬で消えること請け合いである。
ここで描かれているのは、邦銀では考えられないほど、自由で闊達なホンネの世界である。同時に「儲けてナンボ」というディーラーに課せられる強烈な緊張感も窺える。
読み終えて、外資の強さとは、人間の虚飾を取り去って本気にさせるシステムにあるのではないかと思い当たった。藤巻氏が外資で成功したのも、それだけ「非常識」に徹したからだったに違いない。
巻末には、「フジマキ流マーケットの見方」が短くまとめてある。藤巻氏による日本経済の看立てはまことに興味深いが、できればもっと詳しく読みたいところ。マーケットの世界に戻られる前に、ぜひ次回作をお願いしたい。
編集者敬白
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