『代議士のつくられ方――小選挙区の選挙戦略』朴 母、
文春新書 (六八〇円)




内閣四つをつぶして成立した選挙制度改革。その後、二度の総選挙を経たものの、政治改革の実効があがったかどうかは疑問が残る。最近は中選挙区制の復活が堂々と語られるようになってきた。それでは過去二回の経験をどのように総括すればいいのか。

本書は九六年の小選挙区選挙を、候補者に密着して行われたリサーチの結果である。もう一年前に出た本なのだが、日本政治に対する同様な研究はほかには皆無であるとのこと。読んでみたら、「十日の菊」どころか、意外なほど発見が多くて楽しめた。

 著者がフィールドワークの対象としたのは、東京十七区(葛飾区+江戸川区の一部)で初当選を果たした平沢勝栄氏である。地元と接点がなかった平沢氏が、自民党の公認を得て、後援会を作って地方議員を味方につけていく過程が描かれている。

 日本には大衆組織政党がほとんど存在しない。したがって政党は、他の組織にパラサイトしなければならない。特定郵便局や日本遺族会が自民党に影響力を持つ理由はここにある。逆に創価学会という支持母体を持つ公明党は強力なライバルとなる。平沢氏も公明党の現職候補を相手に苦労を重ねる。当選後の平沢氏が、自公連立に否定的な理由の一端が窺える。

 葛飾区の場合、中小企業経営者の多くがKSDの会員であり、約二万人の会員がいた。これが共産党系と公明党系の中小企業に対抗する組織であったと点がミソである。KSDは、地域選挙では自民党の強力な味方であった。

 こうした中間集団を糾合していくことが、効果的な選挙運動となる。十二日間しかない選挙運動期間には、戸別訪問もマスメディアを通じた宣伝も禁止されている。これでは組織頼りの選挙になるのは当然である。  中選挙区制という制度は、いわれているほど自民党に有利だったわけではない。同時に小選挙区制が自民党に不利なわけでもない。中選挙区時代には分裂していた地方議員や支持母体が、新制度では一人の候補者の下に団結するようになった。反対に野党はしっかりした地方組織が作れない。与党は強いのである。

 それでは最近、自民党幹部が口にする中選挙区制への復帰論議とは何なのか。たぶん野党の選挙協力を妨げるための高等戦術なのに違いない。



編集者敬白



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