『日本の大チャンス』 ピーター・タスカ

講談社(一六〇〇円)



最近、意地の悪い楽しみを覚えた。少し前に書かれた本を、図書館でチェックするのである。特に狙い目は、八〇年代後半から九〇年代前半に書かれた日本経済に関するもの。今も活躍中のエコノミスト諸氏が、いかに見通しをはずしているかがよく分かる。

経済に関する本は寿命が短い。現在書店に並んでいる本のほとんども、三年もたてば無価値になるはずである。

これまでに確認した範囲では、もっとも正確に日本経済を予測したのは、ピーター・タスカ氏の『日本の時代は終わったか』だった。まだバブルの余韻があった一九九二年に、この本は資産デフレ、不良債権問題、低成長化、政治の機能不全などの現象を、ことごとく言い当てている。希少価値といっていい。

では、タスカ氏は現状の日本経済をどう見ているのか。九十九年夏に出た最新作は、『日本の大チャンス』である。タスカ氏は「日本は歴史的転換点を迎えた」と断じている。これは注目した方が良さそうだ。

なぜ日本にチャンスが巡ってきたのか。小渕政権の経済政策や、日銀のゼロ金利政策によるものではない。IT産業の将来性もあまり関係ない。それは「"絶望"が本格的に仕事をはじめているから」だという。

「絶望」したとき、人は状況に耐えるのではなく、完全に抜け出して変わらなければならない。現在の日本の経済状況は、とても我慢して切り抜けられるものではない。人々のビヘイビアを根本的に変える必要がある。そういう変化のエネルギーは、みずからの内部から生まれてこなければならないのだ。

いま、日本では古くて非効率なものが次々と舞台から消えていき、新たな機会や学ぶべきことが急速に出現している。だからこそ、現在の日本は「買い」なのだという。

最近、アングロサクソン経済の好調が目立つ。これは米、英、豪、カナダなどの国々が、かつて深刻な経済危機を体験したからである。痛みがあったからこそ、変化ができた。いまの日本人が、本当に痛みを感じているのなら、それこそチャンスが到来している証である。

タスカ氏の論点は、調査や経済分析よりも、歴史的な視野や投資家としての哲学に負うところが大きい。今回の判断も重く受け止めたい。



編集者敬白



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