アーミテージ国務副長官、ケリー東アジア太平洋担当国務次官補、パターソンNSC上級アジア部長。ブッシュ政権の対アジア政策担当のキーマンたちは、そろって米海軍出身の知日派である。クリントン政権下では鳴りを潜めていた彼らの復権は、新政権の日本重視政策を意味するという。それでは日本側の海の人脈はどうなっているのか。
太平洋戦争を戦った日米の海軍は、互いに意外なほどの尊敬と共感を抱いていた。戦後は米国海軍と海上自衛隊が、密接な協力体制を敷くようになる。西側陣営が冷戦を勝ち抜くことができたのは、太平洋における日米の海の協力あればこそ。戦後、日米同盟のもっとも根幹部分を担ってきたのがこの海の絆である。
元海上幕僚長、内田一臣の証言。「ネイヴィーは不思議なものです。そこにはもっとも洗練された国際的に通じる文化がある。おまえネイヴィーか、ああそうか、となる。互いに分かりあえる。・・・・ネイヴィー同士、ときには同胞よりも話がしやすい」。海と戦う男たちは、たとえ敵味方に分かれていても、同じ仲間という意識が生まれるのであろう。
とはいえ、勝者と敗者に分かれた日米のネイヴィーが、すんなりと打ち解けたわけではない。内田は反感を抱いて訪れた米国で、硫黄島メモリアルの兵士の像を見て、「そうか、お前たちも苦しかったのか」と気づき、涙する。
米海軍の闘士アーレイ・バークは、占領軍として赴任した日本で、かつて戦場でまみえた提督たちと再開する。両者が和解するシーンは圧巻である。後年、海上自衛隊の創設に貢献したバークは、最後は日本政府から贈られた勲章だけを胸に埋葬される。
本書はこういった海上自衛隊の創設と発展にまつわる秘話を次々と紹介していく。一連のエピソードの軸となっているのが、米海軍にあって海上自衛隊誕生の歴史を研究したジム・アワー中佐。アワーをめぐる顔ぶれが日米の海の友情を育んできた。
読み終えて感じるのは、同盟関係を支えるのは条文でもなければ兵器の数でもないということ。大切なことは、信頼関係を持った人々が双方の国にいるかどうか。帝国海軍のような伝説や武勇伝とは無縁なままに、戦うことなく国を守ってきた自衛隊の方々のご努力には頭が下がる。
編集者敬白
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